綿矢りさ「勝手にふるえてろ」感想
「とどきますか、とどきません。」
という冒頭から始まるドライブ感溢れる3ページにこの作品の魅力が凝縮されていると言っても過言ではないだろう。
最近映画化されたこの作品は「妄想女子のラブストーリー」なんてキュートな触れ込みだけど、これってそんなにキュートでポップなお話だったっけ??と逆に混乱してしまった。
だって初めて読んだとき自意識でぐちゃぐちゃになってしまったから。
この作品をキュートにしているのは松岡茉優の力量にほかならない。
この作品の主人公ヨシカはもっとどろどろのぐちゃぐちゃの女の子と言った方が良い。
中学生のときから10年以上にわたってイチ彼に思いを寄せる姿や26歳処女ということへの自意識の強さは「こじらせ女子」そのもの。
「いま死んで後悔することと言えばなに? イチに会ってないこと。私はイチにもう一度会いたい。」
「わがまま言うな、残酷なこと言うな、恋心の火は火力を調節できないからこそ尊いんだぞ。」
この作品を初めて読んだのは女子大生の時だった。ヨシカの猪突猛進は危なっかしくて見ていられなかった。少なからず自分を投影していたからだろう。
綿矢りさの書く主人公は彼女自身の成長過程とともに年齢が上がっていくのだろうか(彼女の鮮烈なデビュー作は女子高校生の話だ)。ふと気づいたら私もヨシカと同じ歳になっていた。
今の私にはヨシカのように猛烈にイチを求めるエネルギーはない。ヨシカほどではないが、恋をエネルギーに変えて生きていけてた時期があったはずなのに。
描かれてはいないが、ヨシカにもイチを諦めるタイミングはもっと早くあったに違いない。多くの女の子たちはそうやって恋を気づかぬうちに殺していく。
ヨシカは26歳になって、ニを選んだんだな。選べたんだな。
恋を殺しすぎた私にはヨシカが眩しい。
それにしても、綿矢りさは罪な作家だ。こんなにも生々しく人間を描くなんて。